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第8章:命の選択

太陽の子 —遥かなる宇宙への旅—(文章:Cloude 3.7 sonnet)

第8章の挿絵
「私の命と…太陽系の命」 太郎は呟いた。窓の外では、シャドウ・イーターが徐々に施設を包囲していく。黒い霧のような姿は、次第に濃くなり、窓からの星の光を遮り始めていた。 「時間がないわ」母親の映像が焦りを見せた。「選択しなければ」 太郎は深く息を吸い、両親の顔を見つめた。 「教えてください。どうすれば装置を起動できるんですか?」 父親の表情が少し和らいだ。「中央の装置に接続し、あなたのエネルギーを注ぎ込むんだ。装置はそのエネルギーを増幅し、特定の周波数に変換する。その波形こそが、シャドウ・イーターを撃退できる唯一の手段だ」 「でも、そうすれば太郎は…」ネプチューンが言葉を詰まらせた。 「おそらく生命エネルギーのほとんどを失うでしょう」母親が静かに言った。「私たちの計算では、生存確率は二十パーセント以下です」 施設が揺れ始めた。シャドウ・イーターが外壁を侵食し始めているのだ。 「もう一つの選択肢は?」太郎が尋ねた。 「ここから脱出し、地球に戻ること」父親が答えた。「だが、それではシャドウ・イーターを止められない。彼らは太陽を食い尽くし、やがて太陽系全体が死の世界となる」 太郎は窓の外を見た。かすかに地球が見える。淑淑や育ててくれた家族、そして何も知らず生活を続ける何十億もの人々。すべての命が、今この瞬間の彼の選択にかかっている。 「決めました」太郎は静かに言った。「装置を起動します」 「太郎…」ネプチューンの声には悲しみが滲んでいた。 「大丈夫です。これが俺のやるべきことなんだ」 太郎は中央の装置に近づいた。それは円形の台座に、複雑な機械が取り付けられたものだった。上部には人が横たわれるようなスペースがあった。 「あそこに横になり、装置と接続するんだ」父親が指示した。 太郎は躊躇いなく台座に横たわった。すると、透明なケーブルのようなものが自動的に彼の体に接続された。 「準備ができたら、意識を集中させて。あなたの内側にあるエネルギーを解放するんだ」 太郎は目を閉じた。幼い頃から感じていた内なる炎を意識する。頭から放たれる光、そしてそれを制御する方法を、彼は本能的に理解していた。 「淑淑…お父さん…お母さん…ありがとう」 心の中で感謝の言葉を述べると、太郎は自分の内側に深く意識を沈めていった。そこには、生まれたときから持っていた不思議な力の源があった。それは太陽のように明るく、宇宙の星々のように広大だった。 「今だ!」 太郎は内なるエネルギーを一気に解放した。彼の体は眩しい光に包まれ、それが装置へと流れ込んでいく。痛みはなかった。ただ、生命力が徐々に減っていくような感覚があった。 装置は活性化し、光の筋が部屋中に走り始めた。施設全体が振動し、天井の一部が開いて、巨大なエネルギー放射器が現れた。 「起動成功!」父親の映像が歓喜の声を上げた。「エネルギー変換開始…周波数調整中…」 窓の外では、シャドウ・イーターの黒い霧が施設の表面を覆い尽くしていた。内部にも徐々に黒い霧が侵入してきている。 「急いで!」ネプチューンが叫んだ。 「あと少し…」母親の映像が装置のモニターを見つめている。「変換率九十パーセント…九十五パーセント…」 太郎の意識が遠のき始めた。体から流れ出るエネルギーとともに、生命力も失われていくのを感じる。視界が徐々に暗くなっていく。 「百パーセント達成!放射開始!」 巨大な光線が施設から放たれ、宇宙空間へと広がっていった。特殊な周波数の波が、シャドウ・イーターに直撃する。黒い霧のような姿が、光に触れるとまるで蒸発するように消えていった。 「効いている!シャドウ・イーターが後退している!」 ネプチューンの声は遠くから聞こえるようだった。太郎の意識はほとんど失われかけていた。彼の前に、両親の姿がはっきりと現れた。 「太郎、十分だ。もうエネルギーを送るのを止めなさい」 「でも…まだシャドウ・イーターが残っています…」 「装置は自己維持モードに入った」父親が説明した。「あなたのエネルギーのパターンを記憶し、自動的に生成できるようになったんだ。もう、あなたのエネルギーは必要ない」 しかし、太郎には父の言葉を止める力が残っていなかった。体から流れ出るエネルギーは止まらず、装置は予想以上の出力で稼働し続けていた。 「これ以上続けば、彼は…」母親の声には恐怖が混じっていた。 そのとき、太郎の意識の最も深い部分で、何かが目覚めた。これまで眠っていた、さらに強力なエネルギーの源だ。それは単なる生命力ではなく、宇宙そのものとつながるような力だった。 太郎の体から放たれる光の色が変わった。金色から青白い輝きへと変化していく。装置の出力が急上昇し、放射される光線は太陽系全体を包み込むほどの広がりを見せ始めた。 「これは…予想外の反応だ」父親の映像が驚きの表情を浮かべた。「彼のエネルギーが、装置の限界を超えている」 「でも、これ以上続けば、装置が制御不能になる!」 施設が大きく揺れ、あちこちで警報が鳴り響いた。しかし、太郎の意識はもはや現実世界にはなかった。彼は光となり、宇宙空間を漂うような感覚に包まれていた。 そこで彼は、真の自分の姿を悟った。彼は単なる人間ではなく、宇宙のエネルギーそのものから生まれた存在だったのだ。 「俺は…光だ」 太郎の意識が再び現実に戻ったとき、装置は制御不能の状態だった。しかし、彼はもはや恐れを感じなかった。内なる力を完全に理解し、コントロールする方法を本能的に知っていたのだ。 太郎は装置から身を起こし、両手を広げた。体から放たれる光が装置を包み込み、その暴走を抑え込んでいく。 「太郎!どうして…」ネプチューンは信じられない光景を目の当たりにしていた。 「大丈夫です」太郎の声は、以前よりも深く、力強くなっていた。「俺はようやく自分が何者かを理解しました」 窓の外では、シャドウ・イーターがすべて消え去り、再び星々の輝きが見えるようになっていた。太陽系は救われたのだ。
公開日: 2025/6/4文字数: 2529文字