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第四章:日記の在り処と揺れる心

鳳凰の羽(文章:Gemini 2.5 Pro、イラスト:DALLE3)

第4章の挿絵
白石の言葉は、リビングの空気を一層緊張させた。「約束」という言葉が、玲と広志の胸に重く響く。玲は、手の中にある古びた手紙を握りしめたまま、言葉を失っていた。祖母の過去、そして尊敬する師匠との間に、一体何があったというのだろうか。 「その日記は…今どこに?」広志が、やや硬い声で尋ねた。 白石は少し視線を伏せ、言葉を選びながら答えた。「祖父は用心深い人で…日記は、彼が信頼していたある場所に預けてあると聞いています。ただ、その場所は少し…特殊でして。私一人では、簡単には中身を確認できないかもしれません」 その言葉には、どこか含みがあるように感じられた。広志は、白石が何かを隠している、あるいは躊躇しているのではないかと直感した。玲は、ようやく顔を上げ、震える声で言った。 「白石さん…その日記を、見せていただくことはできますか?祖母のこと、そして先生のこと…どうしても知りたいんです」 彼女の瞳には、不安と同時に、真実を知りたいという強い意志が宿っていた。白石は玲の真摯な眼差しを受け止め、静かに頷いた。「もちろんです。そのために参りました。ただ…日記の保管場所は、私の祖父が長年懇意にしていた古美術商の蔵なのです。そして、その蔵の鍵を管理しているのは、少し気難しいと評判の現当主でして…」 古美術商。その言葉に、広志は微かに眉を動かした。玲の芸術活動とも無縁ではない世界だ。そして、気難しい当主。交渉は一筋縄ではいかないかもしれない。 「手紙の内容も気になりますね」広志は話題を変えるように言った。「玲、少し読めそうかい?」 玲は手紙に視線を落としたが、やはり難しい顔をした。「本当に古い言葉で…それに、少し癖のある字で書かれているから…」 「それなら、私が少し手伝おうか。AIの翻訳ツールも最近はかなり精度が上がっているし、画像解析で文字の判読もできるかもしれない」広志は、かつての仕事で培ったスキルを活かせるかもしれないと考えた。 玲は少し安堵したように頷いた。その時、ケージの中で一番大きなインコが、まるで何かを促すかのように、鋭く一声鳴いた。そして、白石が持っていた美術雑誌の、玲の作品が掲載されているページを嘴で軽く突いた。 「この子たちは…時々、不思議なことをするんです」玲が苦笑しながら言った。 白石は、そのインコの行動を興味深そうに見つめていた。そして、ふと思い出したように言った。「そういえば、祖父の日記には、お祖母様が飼っていた鳥についても書かれていたような気がします。確か…鳳凰に似た、美しい声で鳴く鳥だったと…」 鳳凰に似た鳥。その言葉は、玲の心に新たな疑問を投げかけた。祖母の過去と、今自分たちが飼っているインコたちとの間に、何か見えない繋がりがあるのだろうか。広志は、この謎が、単なる過去の出来事ではなく、現在の玲の芸術、そして二人の未来にも関わってくるのではないかという予感を、ますます強くしていた。そして、白石が次に口にした言葉は、その予感をさらに確かなものへと変えていくのだった。 「日記のありかを示す手がかりは、祖父が遺したもう一つの品に隠されているかもしれません。それは…彼が大切にしていた、古い碁盤なのですが」
公開日: 2025/6/2文字数: 1340文字