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第三章:招かれざる客と古びた手紙

鳳凰の羽(文章:Gemini 2.5 Pro、イラスト:DALLE3)

第3章の挿絵
玄関に立つ若い男は、少し緊張した面持ちで広志と玲を交互に見た。年の頃は玲と同じくらいだろうか。その手には、確かに玲の作品が特集された美術雑誌と、黄ばんだ封筒が握られている。 「どうぞ、中へ」 広志は努めて冷静に男をリビングへ招き入れた。玲は不安そうな表情を隠せないまま、男の後に続く。 「私は、白石と申します。突然の訪問、申し訳ありません」男は深々と頭を下げた。「実は…リン・レイさんの作品を拝見し、どうしてもお会いしてお伝えしたいことがありまして」 白石と名乗る男は、おずおずと古びた封筒をテーブルの上に置いた。宛名はなく、ただ一つ、レコードのジャケットにあったものと酷似した紋様が隅に記されている。玲はその紋様を見て、息を呑んだ。 「これは…私の祖母が持っていたものと同じ…」 玲の声は震えていた。白石は頷き、語り始めた。彼の祖父はかつて中国で活動していた日本人医師で、玲の祖母と親交があったという。そして、この手紙は祖父が亡くなる直前、玲の祖母から託されたものだと。しかし、様々な事情で長い間、白石の家で眠っていたらしい。 「祖父は、いつか必ずリン・レイさん、あるいはそのご家族に渡してほしいと…そう言い遺していました。雑誌でリンさんのお名前と作品を拝見し、もしやと思い…」 玲は震える手で封筒を開けた。中には、古風な中国語で書かれた手紙が数枚。そして、一枚の小さな、セピア色に変色した写真が入っていた。そこに写っていたのは、若き日の玲の祖母と、見知らぬ日本人男性。そして、その背景には、見覚えのある意匠の建物が微かに写り込んでいた。それは、玲が日本で師事した、今は亡き日本画の大家のアトリエに酷似していたのだ。 広志は、玲の肩をそっと抱いた。玲の過去と、日本での彼女の芸術活動が、思いもよらない形で繋がり始めた予感がした。白石は、どこか安堵したような、しかし依然として何かを秘めているような複雑な表情で二人を見つめている。 「この手紙には…何が書かれているのですか?」広志が尋ねると、玲はゆっくりと首を横に振った。「まだ…よく読めないの。古い言葉で書かれていて…」 その時、リビングの隅でインコたちが一斉に騒がしく羽ばたき始めた。まるで、封印されていた何かが解き放たれたことに反応しているかのように。そして、白石の口から、思いもよらない言葉が紡がれた。 「実は…この手紙とは別に、祖父が遺した古い日記があるのです。そこには、この手紙の背景や、リンさんのお祖母様との間にあった、ある『約束』について記されているかもしれません」
公開日: 2025/6/2文字数: 1078文字